パズル論の航路

たまたま、パズル全般について論じた文章を読む機会があった。

数理的な話ではなく、歴史や芸術性に注目しながら話を進めるような内容だったと思う。個別の判断に賛否を感じたのはともかく、それ以前に「パズル」が何なのか、その共通認識が少し曖昧な状態で進んでいるように思えて、全体として結局は言葉遊びになってしまうのではないか、という気がして仕方なかった。

端的に言えば、もはやパズルは学際分野をなしていて、数理的な側面だけで語っても不足感がある。具体的な問題や造形物が数多くあるし、それを「解くための方法」だけが論点ではない。文学・歴史学・心理学・芸術学など、それぞれの視点だけで語っても常に何らかの取りこぼしが生じるくらい複雑な対象になっている。船も多いが、行き先も多いのだ。

そういう意味では、各分野でバラバラに論じる前に、まずは「パズル」という入れ物に何が入るのか、いったん先入観を(捨てるまでいかなくとも)薄めながら、可能性のある要素を集めていく必要があるのではないかな。その後で「パズル」って何だろう、と問いかければいい。

そのために集めるべき要素というのも、これまた複雑だ。

ルービック・キューブとか、数独といった、なにも個別具体的な問題群や創作物のレベルに限らない。形のない遊びだとか、意図せずに生まれた自然物なども場合によっては入るだろうし、ぼんやりとパズル的な文脈を帯びた営みすら集めることになるのも目に見える。それが最終的に「パズルではない」と言える状況が来たとしても、現時点では不都合ないのだ。まずは十分に収集して、それから判断すればいい。

ただ、いま自分が見ている種々の議論において、そうした要素の収集が不完全に思えてならないし、そのせいで話が徒労に終わっているような印象を受ける部分がある。だから、パズルに「論」はあっても、これを「学」とするには程遠いように思えてしまう。

もし、広がりのある妥当な進展を目指すなら、現時点では、無邪気に情報を集めるコレクターのような姿勢が求められているのかもしれない。もちろん、それが簡単でないことも分かってはいるのだけれど。

頼まれごとの六月

いろいろと調べものをして、余計な知識が増えていくせいか、自信を持って断定することが億劫になっている。パズルのことはおろか、自分のことについてさえ断言しにくくなっているのだから、このまま行けば、単なる弱気と見分けがつかない。

とはいえ、大層な考えを持っているわけでないから、曖昧に思い付きを述べるとか、ただ事実を列挙するとか、そうやって言葉を発し続けていくのだろう。

ひとまずセオリーどおり、ここ最近の事実を列挙しておくと、この六月は外からの頼まれごとが多かった。

まず初旬に出たのが、『パズル通信ニコリ』183号のミニ連載。どこで最初にアナウンスしたか忘れたが、前号から半ページのコラムを担当している……というのは偉そうだな。まあ、とにかく、小ぢんまり書ける場所をいただいている。

なぜか編集後記の直前なので、彼らの前座を務めたような気分で浮かれてしまうが、このコーナーの執筆陣は私だけではないから、断言するのはいけないか。あくまで個人の感想です。

ニコリ発行の数日後には、代官山にある渋谷区の施設でワークショップを引き受けていた。放課後時間にやって来る生徒さんに向けた「パズルで遊ぼう」という、タイトルも含めて小細工なしのミニ講座。

あいにく、当日は雨で人が少なかったけれど、バンドの練習を待っていた高校生たちが熱心に遊ぶのを見て、なんだか先は明るいぞ、と勝手に希望を抱く。ついでに「DTCパズル」なんてのも作って置いてきた。つまり、ここでしか遊べない。

上の写真を見て「パズルもの夜席」を思い出した人がいたら、それは鋭い。たしかに、とても似ているのだ。しかし、よく見ると画角が違う。

実を言うと、この撮影は「代官山」のためにやったもの。その後、わりと急に「夜席」の話が進んで、そこに残っていた写真を使うことにした。ところが、先に公表されたのが「夜席」だったので、なんともややこしいね。

ただ、今にして思えば、俯瞰した視点の方がパズルに慣れていない人むけだろうし、パズルに接近している方が愛好家の筋に合う。というか、実際そういう意図で選び分けたのかもしれない。よく覚えていないが、まあ、どちらでもいいか。有終完美。閑話休題。

これとは別に、同時期に頼まれて新たに作ったものがあったけれど、あれは五月だったか。そのうち発表されるので、まだ今は言及できないが、ポッドキャスト「パズルの話半分」を聞いていれば、来月には分かるはず。

ひとまず、諸般の事情が完了したから、懸案の書きもの仕事を進めよう。あまり弱気になっているわけにはいかないが、そうならないと断言できる理由もない。もう、七月ですね。

夜席の案内人から

5月の中旬、ちょっと実験的なイベントを開催することになった。

いろいろ慌ただしく進めている書きものがあって、その成果を表に出すまでには結構な時間がかかる。しかも、その間に(暇つぶしを兼ねて)試作したものが、それなりに溜まってきた。ならば、そのいくつかを正式に制作してみるか、というのが普通の態度なのだろう。

ところが、そうはならなかった。

あれこれ試作したとはいえ、昨今の情勢もあって試遊は不十分だし、いまだ進行中の書きものは新作づくりに近いタイプの案件だから、同じような作業を増やすのは気が乗らない。

それなら、久しぶりにイベントをやってみてはどうか。これが事の顛末である。

タイミングというのは不思議なもので、だんだん世間の流れも変わり始めてきた。そこにきて浅草と押上の中間に「ぶんかぶ」というパズルスポットが誕生したのだ。渡りに船というか、鴨ネギというか(もちろん鴨は私)、これはパズルのイベントを開くチャンスなのでは、と思わざるを得ない。

その結果として計画されたのが、今回の「パズルもの夜席」である。

詳細はリンク先に書いたから良いとして、要は、案内人の私が選定した(メカニカルの)パズルで自由に遊んでもらう場を、日が暮れてから開く。たった数時間のプレイスペースだ。

こういう企画をやろうとすると、やはり「パズいち」の存在が頭にチラつく。

2年ほど続いて、通算の開催は24回。その間に一定のニーズを掘り起こしながら、数年前から無期限休止という、事実上の終幕を迎えたイベントである。あの当時の運営はエキサイティングだったとはいえ、いくらか無理をしている面もあった。

その経験があっての今なんだから、それは仕方がないんだけれども、あくまで別のイベントという認識で今、なんやかんやと準備を進めている。

それなりに参加費は取るし、安心設計で親切な市販のパズルは(おそらく)並ばない。それでもよければ是非、という催し。当日は一体どうなるのだろう。とても楽しみだし、まったく読めない怖さもある。

お越しになるという方は、そんな危うさも含めて楽しみにしていただきたい。大げさに書けば、そんなところです。

2022年と2023年の合間に

ひとまず、年越し蕎麦をたぐり終えたので、この2022年を振り返ってみる。

他にも細かい案件はあるけれど、公表できる範囲で目立ったものを挙げると、こんなところだろう。もちろん、某団体における活動は別にあるとしても、個人レベルで動ける程度には限界があるし、これまでの経験から慎重な判断が増えることも少なくない。

それに、このご時世で動きにくくなったわりには動けた気もするし、数が少ないなりに一つ一つの重さは結構なものだから、それなりに成果はあった。そう評価できるんじゃないかな。

とはいえ、年齢とともに「知恵」がついたというか、どうも考えばかりが大きくなって、アイデアを目に見える形で残す機会が減ったのも、これまた事実。いわゆる、頭でっかちになっている実感は、正直あるんですよ、これでも。

あとは、さまざまな場面で紹介役・まとめ役になったり、慣れていない人や新しく始める人たちに伝達する役回りが増えてきた。これは、まさに年数によるものなんだろうな。

そのうえで、いま思いつくものを作れとか、もうTwitterはやめろとか、早くパズいちを再開しろとか、あれこれ叱咤激励をいただくものだから、余計に考えることが多くなってしまう。実際には「いろんな考え方があるよね」と思うだけなので、それほど自分に影響はないんだけれど、まったく無視することもできない。

いずれにしても、自分が見ているものの流れに任せて、たまに目前の岩を避けるぐらいのスタンスで来年も進むことになりそうだ。ただし、ここ数年、ずっと未完了の案件(その一つにパズラボ帖6も入っていたが、それとは次元の違う件が一つある)に腕を掴まれているので、どうにも機動力は上げられない。

というわけで、例によって、つかみどころのない話になってしまった。

いろいろ思うことはあるけれども、まずは日頃から、私の作品やイベントに興味を持ってくださった方々に感謝を申し上げます。そして、こんな雑文を読んでくださったあなたにも、それは同じ。

2023年は穏やかな年になるといいな。というか、そうしたい。

十数年ぶりの刊行

そろそろ、伏線の回収というか、前振りの後付けをしておきたい。

結論から言うと、パズラボ帖の最新刊が出たのだ。前号の『パズラボ帖5』が2011年に出てから、十年ちょっと経ったことになる。

http://kofth.com/projects/pzlbc/

前号は「ふしぎもの」と名付け、パズルの世界では周辺分野のように扱われてきた品々に注目したのだけれど、今回の特集は「グラスパズル」という王道のシリーズ。ある時期に界隈をにぎわせただけあって、けっこう話題も多い。

残念ながら、グラスパズルそのものは終了しているので、これから新作が出ることはないし、もし今から出たとしても、当時のラインナップと同等に捉えられることはないだろう。ただ、シリーズとしては止まっているからこそ、これまでの状況を整理しやすいし、また整理する意義もある。

この特集については、本当に話題が色々あって、それこそ、完成までに十年近く経った事情さえもエピソードの一つと言えそうだ。そのあたり、つらつら書くとキリがないから、ひとまずポッドキャスト「パズルの話半分」で話そうと思っている。

そんなことより、今すぐ手に入れて読みたい、という熱意ある人(とても良いお客さん)は、下記のリンク先に進むと良いかもしれない。

https://shop.puzzlab.com/?pid=171628739

ところで、以前の記事に書いた「定番」というのは、本件のことだった。この冊子を定番と言うには発行まで長すぎるが、それだけ手間のかかるものだし、いくらか引っ張る方が説得力も増すのではないか。そう達観しておこう。