夜席の案内人から

5月の中旬、ちょっと実験的なイベントを開催することになった。

いろいろ慌ただしく進めている書きものがあって、その成果を表に出すまでには結構な時間がかかる。しかも、その間に(暇つぶしを兼ねて)試作したものが、それなりに溜まってきた。ならば、そのいくつかを正式に制作してみるか、というのが普通の態度なのだろう。

ところが、そうはならなかった。

あれこれ試作したとはいえ、昨今の情勢もあって試遊は不十分だし、いまだ進行中の書きものは新作づくりに近いタイプの案件だから、同じような作業を増やすのは気が乗らない。

それなら、久しぶりにイベントをやってみてはどうか。これが事の顛末である。

タイミングというのは不思議なもので、だんだん世間の流れも変わり始めてきた。そこにきて浅草と押上の中間に「ぶんかぶ」というパズルスポットが誕生したのだ。渡りに船というか、鴨ネギというか(もちろん鴨は私)、これはパズルのイベントを開くチャンスなのでは、と思わざるを得ない。

その結果として計画されたのが、今回の「パズルもの夜席」である。

詳細はリンク先に書いたから良いとして、要は、案内人の私が選定した(メカニカルの)パズルで自由に遊んでもらう場を、日が暮れてから開く。たった数時間のプレイスペースだ。

こういう企画をやろうとすると、やはり「パズいち」の存在が頭にチラつく。

2年ほど続いて、通算の開催は24回。その間に一定のニーズを掘り起こしながら、数年前から無期限休止という、事実上の終幕を迎えたイベントである。あの当時の運営はエキサイティングだったとはいえ、いくらか無理をしている面もあった。

その経験があっての今なんだから、それは仕方がないんだけれども、あくまで別のイベントという認識で今、なんやかんやと準備を進めている。

それなりに参加費は取るし、安心設計で親切な市販のパズルは(おそらく)並ばない。それでもよければ是非、という催し。当日は一体どうなるのだろう。とても楽しみだし、まったく読めない怖さもある。

お越しになるという方は、そんな危うさも含めて楽しみにしていただきたい。大げさに書けば、そんなところです。

2022年と2023年の合間に

ひとまず、年越し蕎麦をたぐり終えたので、この2022年を振り返ってみる。

他にも細かい案件はあるけれど、公表できる範囲で目立ったものを挙げると、こんなところだろう。もちろん、某団体における活動は別にあるとしても、個人レベルで動ける程度には限界があるし、これまでの経験から慎重な判断が増えることも少なくない。

それに、このご時世で動きにくくなったわりには動けた気もするし、数が少ないなりに一つ一つの重さは結構なものだから、それなりに成果はあった。そう評価できるんじゃないかな。

とはいえ、年齢とともに「知恵」がついたというか、どうも考えばかりが大きくなって、アイデアを目に見える形で残す機会が減ったのも、これまた事実。いわゆる、頭でっかちになっている実感は、正直あるんですよ、これでも。

あとは、さまざまな場面で紹介役・まとめ役になったり、慣れていない人や新しく始める人たちに伝達する役回りが増えてきた。これは、まさに年数によるものなんだろうな。

そのうえで、いま思いつくものを作れとか、もうTwitterはやめろとか、早くパズいちを再開しろとか、あれこれ叱咤激励をいただくものだから、余計に考えることが多くなってしまう。実際には「いろんな考え方があるよね」と思うだけなので、それほど自分に影響はないんだけれど、まったく無視することもできない。

いずれにしても、自分が見ているものの流れに任せて、たまに目前の岩を避けるぐらいのスタンスで来年も進むことになりそうだ。ただし、ここ数年、ずっと未完了の案件(その一つにパズラボ帖6も入っていたが、それとは次元の違う件が一つある)に腕を掴まれているので、どうにも機動力は上げられない。

というわけで、例によって、つかみどころのない話になってしまった。

いろいろ思うことはあるけれども、まずは日頃から、私の作品やイベントに興味を持ってくださった方々に感謝を申し上げます。そして、こんな雑文を読んでくださったあなたにも、それは同じ。

2023年は穏やかな年になるといいな。というか、そうしたい。

十数年ぶりの刊行

そろそろ、伏線の回収というか、前振りの後付けをしておきたい。

結論から言うと、パズラボ帖の最新刊が出たのだ。前号の『パズラボ帖5』が2011年に出てから、十年ちょっと経ったことになる。

http://kofth.com/projects/pzlbc/

前号は「ふしぎもの」と名付け、パズルの世界では周辺分野のように扱われてきた品々に注目したのだけれど、今回の特集は「グラスパズル」という王道のシリーズ。ある時期に界隈をにぎわせただけあって、けっこう話題も多い。

残念ながら、グラスパズルそのものは終了しているので、これから新作が出ることはないし、もし今から出たとしても、当時のラインナップと同等に捉えられることはないだろう。ただ、シリーズとしては止まっているからこそ、これまでの状況を整理しやすいし、また整理する意義もある。

この特集については、本当に話題が色々あって、それこそ、完成までに十年近く経った事情さえもエピソードの一つと言えそうだ。そのあたり、つらつら書くとキリがないから、ひとまずポッドキャスト「パズルの話半分」で話そうと思っている。

そんなことより、今すぐ手に入れて読みたい、という熱意ある人(とても良いお客さん)は、下記のリンク先に進むと良いかもしれない。

https://shop.puzzlab.com/?pid=171628739

ところで、以前の記事に書いた「定番」というのは、本件のことだった。この冊子を定番と言うには発行まで長すぎるが、それだけ手間のかかるものだし、いくらか引っ張る方が説得力も増すのではないか。そう達観しておこう。

話半分のはなし

話半分を始めた。誤記ではない。ここは「話半分に」ではなく、「話半分を」なのだ。

もし、始め方までテキトーだったら「話半分に話半分を始めた」なんて奇をてらうこともできたのだけど、それは余談が過ぎるので、そっちには進まない。閑話休題。

さっさと結論を言えば、話半分という名のコンテンツを始めたのである。正確には「パズルの話半分」というポッドキャスト。言わば、インターネットラジオみたいなものだ。

パズルの話半分

Spotify

いまだに、パズルって何だか分からない。そういう、よく分からない、大きな海みたいな広がりを雲の上から眺めるようなスタンスで、ときに降下して魚群を見たり、ときに上昇して潮の流れを見たりする。それを音だけでやろうというのだ。いくらでも動画が作れる時代に奇特な話ではあるが、始めてしまったものは仕方がない。

ちなみに、これを書いている時点では合計で3回ほど公開されていて(第0回なんてのがあるからカウントがややこしい)、手元には同じだけの収録分がある。つまり、このストックを順に解き放つわけで、基本的にリアルタイムの配信ではないから、どうしてもタイムラグというものが発生する。しかし、話している人間たちに収録後の出来事は関係ない。

そうなると、タイムリーな話題は期待しない方が良いのだが、そもそもパズルは時期を選ばないものじゃないですか。違うかな。いずれにしても、話半分だから気にしないでいこう。

なお、前回の記事で「例外」とボカして書いたけれど、これは本件のことを指している。まあ、気軽に楽しんでください。

いつもの編集、べつもの編集

ここに来て、定番と例外に追われている。より正確に言えば、十年ほど前に始まった(はずの)プロジェクトと、その再開をきっかけに誕生したプロジェクトだ。

古い方の案件は下準備を進めていたものの、制作サイドの諸事情があって長らく休止状態。ところが、昨今の情勢でオンライン会議が増え、かえって遠方どうしの距離が縮まった結果、このプロジェクトも打ち合わせから再開しようという話になった。

ネット上での打ち合わせは、この感染症禍が広がる前から個人的に多用している。他県のメンバーで事を進めることも多いから、いちいち長距離移動で顔を合わせるわけにはいかないし、そのための時間と費用も無視できない。今や珍しい話でもないでしょう?

そんな慣れもあって、あの古くからの案件に、少なくとも会議スタイルの上では新しい形を盛り込むことになった。いざ、その重いフタを持ち上げてみると、意外とすんなり滑り出せる。先は明るい。あとは動くだけだ。と、そのための準備作業が冒頭の「定番」なのだ。

で、もう一方の「例外」は何かといえば、これについては述べようがない。まったくもって「定番」とは異なる形式だから……というより、作ったことがないものなので、作り方から作ってきた。

とはいえ、どちらも編集という言葉を使える対象ではある。「定番」の方は、いつもの編集だなと思えるし、まだ別物という印象の「例外」にも、まあ編集だなと感じることが多い。素材そのままを味わってもらうことができそうにないのだから、これは仕方ないか。

さて、あとは披露するタイミングを決める必要がある。おそらく「例外」の方が先になるのではないかな。慌ただしいのは今に始まったことではないし、こうして同じ時期にもがいていたのを後で笑えるくらいになればいいなと思うばかりだ。